忖度
そんたく【忖度】
（ 名 ） スル
〔「忖」も「度」もはかる意〕
他人の気持ちをおしはかること。推察。 「相手の心中を－する」
他者との会話において「気持ちを推察する」というのは言わずもがな大事です。相手の発した言葉を咀嚼し、相手が何を思ってその内容をチョイスしたのかを推し量り、この後どう会話を広げていくべきか思考を巡らせる。この過程無しに会話というものは成立しません。*1
今回お送りするのはそんな忖度と会話にまつわるトホホなエピソードです。
これは僕が大学に入学した直後のお話。
うちの大学には授業の関係上一応クラスという概念がありまして、数十人単位で一クラスが作られることになってたんですよ。そんで新入生向けのオリエンテーションなんかも、学科の人数が60人くらいのところは学科=クラスみたいなもんなんで学科ごとにやってたんですが、まあ僕の学科なんかは数百人いるのでそのクラス単位でやるわけです。
まぁオリエンテーションなんつっても大したことはやらず、上級生の有志(？)が進行する中一人ずつ自己紹介して、その後は学生自治会的なモノの生贄になる人を決めたり、これまたクラス単位でやるスポーツ大会*2の参加種目を決めたりなんかしておしまいってだけのイベントです。
そんでまあ、新入生が順番に前に出て自己紹介をしていくわけなんですが、やっぱり腐っても都内の大学ですから上京してきた人ってのがわりかしいるんですよね。そうするとまぁ出身地の話になるのは当然の帰結。一通り自己紹介を終えた後に上級生や他の新入生が質問するコーナーがあるんですが、そこで即席ご当地紹介が始まって何だかんだ盛り上がるわけです。イージーモードで非常にうらやましい。
じゃあ実家暮らしの人はどうなのかと言えば、こっちはこっちで近所の人間が集うわけですからジモトークに花が咲いたりするわけです。いやいや、○○駅西口の松屋とか知らねーから、って感じ。
さて、ここで一つ問題が発生します。
「はるばる上京して一人暮らし！」の人も「そもそも実家が大学の近所！地元マジ卍！」の人もなんだかんだ盛り上がるのは分かりました。
じゃあ、「実家暮らしだけど大学からはけっこう遠い」枠の人はどうなってしまうんでしょうか。まぁこれ僕の事なんですけど。
しかもね、そういう微妙な枠でも地元に何か名物とかあるならまだいいですよ。でも俺埼玉県民だよ。ねえ。埼玉県民なんですよ。何の話しろってんだよ。名物は「何もない」ことそのものだって？じゃかしいわ。今そんな話してねえんだよ、黙っとけカス。
一応川越市民ではありますけど、川越の市街地なんかろくすっぽ歩いたことないですからね。川越より秋葉原とか新宿西口のほうがよっぽど詳しいですよ。いやマジで。
はてさて、うまいこと会話の種を作るにはどうしたものか。無い知恵絞って考えた結果、一つの案が思い浮かびます。
「”愛知生まれ”でゴリ押すしかねぇな…」
ご存じない方のために説明しておくと、僕一応愛知県犬山市生まれなんですよ。生後1年とかで埼玉引っ越しちゃったんで全く記憶にないんですけど、一応愛知で生まれてちょっと育った事実があるんですよ。
…イケる。埼玉ならともかく愛知。三大都市圏の一角、名古屋を擁する愛知。話題には事欠かねえ。愛・地球博だって行った。今の俺は無敵。俺が愛知県民だがや。
そんなわけで自己紹介オンステージ。中高の部活の話とかさせられつつ、いざ出身地の話へ…！！！
「…で、出身は…今住んでるのは埼玉なんですけど、一応生まれは愛知なんですよ」
決まった。完膚なきまでに愛知県民。「先に言われたことより後に言われたことの方がより印象に残る」みたいな叙述テクニックまで駆使しちゃって、もう愛知の話する気満々でいました。「いやいや、愛知県民エビフリャーとか言わないですからね（笑）」みたいな。
で、質問コーナー。女の先輩が手を挙げて一言。
「わたしも埼玉生まれなんですけど～、よく何もないとか言われるじゃないですかぁ。埼玉のいいところってどこだと思いますか？」
じゃかしいわ。ねえよ、そんなもん。今そんな話してねえんだよ、黙っとけカス。
ええ、完膚なきまでにプラン崩壊です。もうその後は何をしゃべったかすら覚えていません。今ぼくに同じ学科の友人がほとんどいない時点でロクなこと言ってないのは自明です。
「何のためにあそこで愛知要素をにじませたと思ってるんだ」とか「お前埼玉生まれならその発言が如何にキラーパスなのかよく分かってるだろ」とか、言いたいことは山ほどありますが今更そんなこと言っても後の祭り。忖度によって人生を狂わされてしまった悲しき男の大学生活はここから始まったのでした。というか、現状が悲惨すぎてそうだと思わないとやってらんねえ。
そんなわけで、忖度ってやっぱりめちゃくちゃ大事なことだと僕は思うわけです。なぜ日曜日の未明からこんな話をしているのかは全くもって意味不明ですが、そこはまぁ、皆さんぜひ僕の意図を忖度してみてください。
それでは今回はこの辺で。
