ゆないてっどじろーず

140字以上のチラシの裏置き場です

ぼくのなつやすみ ~HAKODATE SURVIVAL編~

2018年9月6日午前3時8分。

北海道を未曽有の大地震が襲いました。

厚真町では最大震度7を記録、それに伴う北海道全土での大停電は人々の生活に深刻な影響をもたらしました。

ちなみに地震発生当時、僕がどこで何をしていたかと言いますと…

 

思いっきり函館にいました。

 

 

前日の9月5日、東北での合宿からそのまま延長戦に突入し、雷鳴轟き風雨吹き荒れる函館に上陸した僕と大学同期たちの3人。函館山の夜景なんてもっての外、終電の確認ミスで湯の川温泉に入ることもできず、宿では「明日こそ温泉に入ろう」「五稜郭も見よう」「飯は朝市とラッキーピエロで決まりだ」「夕方の新幹線で一気に大宮まで帰ろう」とウキウキで6日の行程を立てていました。

そして一番最後まで夜更かししていた僕がぼちぼち寝ようかな、と思った瞬間、突如全て消える部屋の電気。

小さい民宿に泊まっていたこともあり、「お、どっかの部屋がブレーカーでもやらかしたか?」なんて思ったのも束の間、連れや他の部屋の宿泊客の携帯、防災無線、あらゆるところからあの不安を煽る緊急地震速報のサイレンが鳴り響きます。*1

いくら能天気な僕と言えども、さすがに直感で「これはワンチャン死ぬタイプのやつだ」と悟り、慌てて布団に潜り込み完全に豚まんと化して落下物に備えます。そして幸いなことに同行者は二人とも地理学徒。「これは遠くでデカいのが起こってるタイプの揺れ」などときわめて冷静に分析してくれるのを聞きつつ揺れが収まるのを待っていました。

地震Twitter集合の合図じゃない」なんてよく言いますが、停電している以上テレビは使い物になりませんし、ぶっちゃけ一刻も早くリアルタイムの情報を手に入れたいときにはTwitterを開くに限ります。すると案の定、開いてすぐに胆振東部で6強」*2というツイートが流れてきました。ワイのフォロワー、有能!w
それと同時に、かなりの広範囲で停電が発生していることもわかりました。ちょっと流し読みしただけでも札幌、釧路、旭川根室、そして今我々がいる函館…つまるところほぼ北海道全域です。

人間というのは絶望的な状況に立たされるとやはりどうしても楽観的に考えたくなるようで、僕自身も「たった1回の地震の影響で全域が停電なんてありえないし一旦わざと止めてるだけだろう、どうせ朝になったらこの辺は復旧してるに違いない」なんて呑気な考えでいました。実際には相当マズいことになっているわけですが。

さて、今回の大停電の原因は「ブラックアウト」と呼ばれる現象だったといわれています。詳しいメカニズムは文系なのでよくわかりませんが、要するに「需要に対して供給が追い付かなくなった際に自動で全ての発電所が止まるようになっている仕組み」とでも思っておけば概ね間違いはないと思います。

今回の場合、まず震源地の至近にあった苫東厚真火力発電所地震によるボイラー損傷で停止。しかしこの苫東発電所、なんと道内の4割の電力を担っています。これが止まってしまった結果、他の発電所では道内の電力を支えきれずブラックアウトが発生。一瞬で道内の電力がくたばった結果、僕がいた函館では地震の揺れよりも停電の方が先に発生するという不思議な現象が発生したわけです。

小難しい話はこの辺にして、その後の僕の状況の話をしましょう。

とりあえずNHKのらじるらじるでラジオを聴きつつ、どうやら至近距離に泊まっていたらしいフォロワーと「星がめっちゃ綺麗でワロタ」みたいな話をしていましたが、一応翌朝は朝市に行く予定だったのでぼちぼち寝ないとマズい、ということで5時前くらいに就寝。

翌朝、ド派手に寝坊して9時半に起床したはいいものの状況は全く変わっていません。相変わらず扇風機は頭を垂れて沈黙していますし、外の信号機もくたばっています。

一緒に朝市に行こうと話していた、湯の川に泊まっている先輩と連絡を取るも「市電が動かないことにはどうにも」との返答。そりゃそーだ。

とりあえずこちらも10時には宿を出ないといけないので荷物をまとめチェックアウト。Twitterによると朝市はどうやらほんの少しではありますが営業している模様。それならば…と、ちょっと様子を見ていくことにしました。

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街の様子。信号が死んでいるので警官が交通整理をしています。

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朝市。普段の様子を知らないのでアレですが、思いの外活気はあるように思えます。

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適当に入ったご飯屋さんは「ご飯ものは全滅だけどカニ汁なら出せる」とのことなのでカニ汁をいただきました。お値段破格の1杯100円。奥の方ではサラリーマンっぽい方々がビールを呷ってました。わかるわかる、こんなんじゃもうやってらんないよね。

そして駅に向かう途中、ふとどんぶり横丁を覗くと何やら人の気配が。

見てみるとなんと2店舗だけ営業しており、長蛇の列もいったん落ち着いた様子だったので入ることに。

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というわけで海鮮丼にありつくことができました。五種お好み丼(マグロ、ウニ、イクラ、エビ、ホタテ)で確か2500円くらい。これまた安い。
こんな時でもお店を開けてくれたことに感謝。

腹ごしらえも終えたところで情報を集めるべく駅に向かいます。

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案の定帰宅難民でごった返していました。駅に着くと、ちょうど駅長さん直々に駅舎の夜間開放をする旨を発表していました。

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で、改札前の掲示板。北海道新幹線は東京行き最終のはやぶさ42号を除き全列車運休、はこだてライナーも42号に接続する1本を残して運休。

さて、これは非常に厄介な事態になりました。

というのも、我々が確保していた切符はまさにそのはやぶさ42号の指定券。これでもし全運休なんかになってしまっていれば即刻払戻申出証明を受けてタクシーでフェリーターミナルに飛ぶという判断を下せたのですが、運休が決まっていない以上払戻申出証明を受けてこの切符を手放すのはなかなかリスキーな試みです。仮にこれを手放してフェリーのキャンセル待ち列に並ぶとして、もしフェリーの順番が来る前に42号の運行が決まったとしたら…まず取り直すことはできないでしょう。42号で帰れるに越したことはないが、フェリーターミナルに飛ぶには42号の運休が決まらなければならないという、どっちつかずの宙ぶらりんな状態になってしまっているわけです。42号の指定券は「確実に帰れる保険」であると同時に「行動の選択肢を狭める足枷」となって我々を苦しめてきます。なんというアイロニー*3

とはいえ、ここで泣き寝入りというわけにもいかず。函館駅長の「どうせですから観光でもしてってください」という言葉を真に受け、転んでもただでは起きねえぞの精神で赤レンガ倉庫を見に行くことにしました。

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ヒャッホウ!誰もいねえぜ!

人っ子一人いない赤レンガ倉庫、マジの倉庫感が出てなかなかいいですね。エモい。
多分二度と見られない光景だと思いますが。

そのついでに、万一の事態に備えて近くのハセガワストアで残っていた飲み物と菓子を買い込み駅に戻りました。

そして待つこと約1時間。16時頃、ホワイトボードの張り紙が替えられます。

「本日道内全列車運休」

知 っ て た。マッハで払戻証明を受けてフェリーターミナルへ!

函館~青森は青函フェリー津軽海峡フェリーの2社が就航しており、どちらにするか迷いましたがここは1隻あたりの収容力が上の津軽海峡に賭けることに。

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ターミナルに到着。乗船申込書を書いている最中、事件は起こりました。

ぼく「あ、スマホなくしましたね…」

ガイジ~~~~~~~~~~~~~~??????????????????

・タクシー乗った時点ではあった
・ターミナルついてから出してない

以上2点からタクシー車内なのは確定。レシートをもらっていたので号車番号もわかる。

であれば、通常なら営業所に電話すれば済む話です。
が、ところがどっこい、ここは被災地。電話はロクに繋がりません。

というわけで「同じ会社のタクシーを発着場で待ち構えて連絡を取ってもらうよう頼む」作戦に出ました。

1台目には盛大に逃げられ、話を聞いてくれた2台目の運転手さんに事情を説明したところ、まずは無線で聞いてみてくれたのですが当該号車に無線が繋がらず…それでもあれこれ手を打ってくださるのですがなかなか解決策は見つからず、万事休すかと思われたその時。

当該号車、別のお客さん乗せて戻ってきました。なんつーミラクル。

早速同行者が駆け寄ったところ運転手さんも我々の事は覚えており、スマホは営業所で預かってもらっているとの事。

稼ぎ時に長時間引き止める形になってしまった運転手さんにお礼を言い、当該号車の運転手さんと一緒に営業所へ。道中「営業所に電話もしたんですがつながらなくて…」とこぼすと、運転手さん曰く「そりゃそうだよ、停電してんだもん固定電話なんか繋がらないよ」とのこと。

たしかに!!!!!3人いて誰もそれに気が付かなかった…

そして無事スマホと再会。お二人の運転手さん、本当にありがとうございました…!

その後はフェリーターミナルにとんぼ返り。外まで続く青森行きの「キャンセル待ちチケット購入」の列に並びます。前の方に並んでいた人の話を盗み聞く限り、列の待ち時間は推定3時間程度

なんだ、閉店1週間前の大宮二郎と同じくらいじゃねえか。余裕余裕。だんだん変なテンションになってきました。

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腹立つくらいに夕焼けが綺麗でした。もっと心の余裕があるときに見たい。

ところで、列に並んでる途中トイレに行ったのですが、その時に隣で同じく用を足していたおじさんとちょっとした世間話に。

おじさん「いや~混んでるねぇ」
ぼく「大変ですよねぇ、どちらからいらしたんですか」
おじさん「いや函館だけどさぁ、5日に着いて観光しようと思ってたらこのザマだからもう帰ることにしたよ…埼玉から来たのに」
ぼく「えっ、僕も埼玉なんですよ」
おじさん「へえ、埼玉のどこ?」
ぼく「川越です」
おじさん「俺も川越
ぼく「…!!?!??!?!?!?!?!?」

なんつーミラクル(2回目)

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さて、こちらはターミナルの様子。非常用のバカデカいライトで辛うじて照らされてる以外は完全に停電しています。

そして並ぶことピッタリ3時間、青森便の「キャンセル待ち整理券」を確保。

あとは整理券の番号「901」が呼ばれるまでターミナルの中で浮浪者になって待ちます。フロアの片隅の地べたに座り込み、ハセガワストア仕入れた菓子で晩餐会。しんどい…

チケット確保時点で20時だったので、そこからさらに待つこと3時間。2便を見送り精神的にもぼちぼち限界が近づいてきます。

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23時過ぎ。いよいよ3便目、ブルードルフィン2が入港してきました。果たしてこいつは希望の船となり得るか。

30分後、下船が終わりターミナル職員の口から整理券番号が告げられます。

「それでは、徒歩の方が860番から910番…」

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!

18時半の新幹線に乗るはずだった当初の予定から遅れること5時間、ついに脱北決定

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さらば、函館。さらば、北海道。元気になったらまた来るからな。

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乗船して即コンセント確保、自販機弁当もちょうど人数分残っていたので買い占めてきました。ここでもう一度コメが食える喜びよ…

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泥のように眠り、起きたら青森に着いていました。ここまで運んでくれたイルカさんを夜明けの青森港で1枚。

タクシーで青森駅に出て、みどりの窓口オープン待ちの列に並ぶこと30分。無事に昼過ぎの新青森発の新幹線を確保してそのまままちなか温泉へ。

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風呂上がりのフルーツ牛乳は生命の根源です。休憩所でこれまた泥のように眠っていたら昼前のいい感じの時間になっていたのでお昼を食べに青森市内へ。

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青森名物、味噌カレー牛乳ラーメン「味の札幌 大西」のものが一番有名みたいですが、あいにくそちらは臨時休業中だったので同じ系列の「味の札幌 浅利」でいただきました。うん、味噌とカレーと牛乳の味がしてめっちゃおいしいです。それ以上でもそれ以下でもないです。ただただ、別に化学反応が起こるわけでもなく、名前通りの味でめっちゃおいしいです。

そして青森から一駅だけつがるに乗り、新青森からはやぶさ22号で大宮へ。

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スゴイカタイアイスのノルマも達成。同行者がウイスキー持ってたんでかけて食べました。天才の味がしました。

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仙台を出たらノンストップであっという間に大宮着!ようやく埼玉に帰ってきたぞ…

ここまで来ればゴールまでは残りわずか。川越線に乗り換えて…

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あ!!!!!!!!

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あああ!!!!!!!!!!!!!

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あああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!帰ってきたぞ、新河岸!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

かくして僕の壮絶な函館サバイバルツアーは幕を閉じたのでした。

 

今回の函館旅行では本当にいろんな人に救われました。

非常事態にも拘らず店を開けてくれる朝市の方々。

店内電源を車のエンジンから確保してでも営業してくれたハセガワストア

いつ電車が動くかもわからない中、懸命に旅客に寄り添ってくれた函館駅の係員の方々。

1円の稼ぎにもならないのに、ドジっ子オタク大学生のやらかしに親身になって対応してくれたタクシーの運転手さん。

そして何より、ターミナルの電気すらロクに復旧してないのに全力のピストン輸送で我々を本州まで送り届けてくれたフェリー運航に携わる方々。

どれか一つでも欠けていたら、間違いなくこの旅行は悲惨なものになっていたでしょう。それでも今、僕がこうして当時を振り返ってブログに書き記せているのは、あの日の函館で、自身も被災しているにも拘らず、「今出来ることを」と、多くの人々のために懸命に頑張ってくださった方々のおかげに違いありません。

ありがとう函館。ありがとう北海道。
いつか絶対リベンジしに行ってやるぞ。

今度はちゃんと新幹線でね。

*1:自分のスマホは終始沈黙を保っていたので、今後何かあったら割とすぐ死ぬと思う

*2:のちに震度7に格上げ

*3:ちなみに冒頭に登場した湯の川に滞在していた先輩、幸か不幸か帰りの交通手段を確保していなかったので即刻タクシーでフェリーターミナルに逃げて昼過ぎには青森にいたらしい。フットワークの軽さに敬服するばかりだ